本の虫のひとりごと

ぐうたらな本の虫の少し長めの独り言です

とにかくセリフを味わう小説〜ノルウェイの森/村上春樹〜

ノルウェイの森ってど定番すぎるでしょ!

といったツッコミが入ることは確実でしょうが好きなので仕方がない。

ちなみに私は根っからのハルキストです。笑

私の初めての村上春樹体験はでオードリーヘップバーン主演の映画でも有名なティファニーで朝食をトルーマンカポーティ)”の翻訳でした。

僕の中での村上春樹は最初は翻訳家だったわけです

(特にその頃はお金のない中学生だったので書店に行くことなどほとんどなく、図書館中心だったので現役の人気作家には疎い所がありました。今と違って報道も加熱していなかったので)

 

そんな訳で初めて手に取った村上春樹作品がノルウェイの森だった訳です。

 

ひたすらに刺さるセリフの応酬というのが私のノルウェイの森評です。これぐらいの長さの小説だとストーリーやプロットとしての魅力よりもセリフや描写が強い力を持っていることが繰り返しよむとわかります。

 

まずは主人公のワタナベ君のセリフ

「孤独が好きな人間なんていないさ。無理に友達を作らないだけだよ。そんなことしたってがっかりするだけだもの」

 

 これには友達の少ない私はかなり共感しました。笑

ただこれをさらっと言ってしまうから孤独が好きに見えるんですよね。性格的にはかなりこじれているところが見受けられるワタナベ君ですが悪い男ではないし、これがモテまくるんですね。よく村上春樹の小説の批判で主人公がやたらと非現実的にモテるというのがありますがこのワタナベ君は物語の冒頭でこんな会話をしています。

「じゃあ私のおねがいをふたつ聞いてくれる?」

「みっつ聞くよ」

 

これはモテないわけがないですよね。笑

そして主人公がモテまくるのは非現実的というのは意味不明な批判です。小説っていうのはただの物語ですから(これは物語の力を否定している訳ではないです)

 

次は私が一番好きなキャラクターの永沢さんのセリフ

「知らない女と寝てまわって得るものなんて何もない。疲れて、自分が嫌になるだけだ。そりゃ俺だって同じだよ」

この永沢さんというのが家は名家、成績優秀のプレイボーイといったチート人間なのですが定期的に夜の街にガールハントに出かけるというトンデモない先輩なんですね。

私が思うこの小説のテーマは自己との葛藤と矛盾です(現にこの物語には色々な問題で揺れ動く人の心が描写されています。)自分は今こうすべきなのだ、でも自分の望む道は違う。こういうケースはどっちを取っても後悔するしかないものですがこの永沢さんはこの自己矛盾を受け入れて先へ先へと人生を進めていきます。ある意味作中最も孤独な人物です。

 

最後は本作のヒロインである緑のセリフ

「恋人がいたらあなたのこと考えちゃいけないわけ?」

なかなか痺れるセリフですよね。一度でいいから言われてみたい。笑

ある意味このノルウェイの森という全体的に暗い物語で唯一希望の光のようなものを放っているのが緑の存在です。名前の通り生命力を弾けさせて進んで行くような女性。

人間にとってひと時に二人の人に惹かれてしまうのは永遠のテーマではないでしょうか。彼女のすごいところはその悩みをすんなり飛び越えちゃうところですね。そしてそこが大きな魅力になり、ワタナベ君の最後の選択にも影響を与えてくるのです。

 

最後に

ノルウェイの森はセリフと見事な比喩表現を味わう小説と言っても過言ではないでしょう。

ストーリーの組み立てに関してはいたってシンプルですが登場人物たちの心の動きを言葉の掛け合いや比喩でどんどん揺らす正に王道の純文学という感じですね。ただ本作で直接的な感情表現、心理描写はやりきったということか以降の村上作品での感情描写はもっと静謐で深遠なところに隠れていきます。物語そのものの魅力にシフトして行くと言った感じですかね。日本人作家は基本的には登場人物の心理描写に重点がおかれ、直接的な場合が多いというか共感という部分につながって行くわけですが、それに比べて英米文学はあくまで物語性や状況描写に重点が置かれ人物そのものの心の動きを直接描写することは少ないかと思います。同じ涙が水溜りに落ちるシーンを描く場合に涙の軌跡を描写するか波紋を描写するかというような細かい差ですが村上春樹さんの作品が世界中で広く読まれているのはこの辺りがポイントになっているのかもしれません。

 

これ以上は長くなってしまうので次の機会に、、ではこの本を手に取る人が少しでも増えますように

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