本の虫のひとりごと

ぐうたらな本の虫の少し長めの独り言です

予定調和で何が悪い〜フィッシュストーリー/伊坂幸太郎

出来のいい小説を読んだ時、ある程度の読書歴がある人はこう思ったことが一度はあるはずです....

 

幾ら何でも都合良すぎやろ!!!

 

今日はそんな小説家を紹介したいと思います。

 

 

エンターテイナーな小説家

 今日ご紹介したいのは伊坂幸太郎さんです。

彼の小説の魅力は圧倒的な快感だと思います。リーダビリティに優れていて、キャラクターの立て方も上手く、独特のテンポもある作家。きっと手に取ればその快感がわかるはずです。

彼の小説で一番好きなのは堺雅人主演で映画かもしている「ゴールデンスランバー」ですが、伏線回収という意味では私は「フィッシュストーリー」を推薦します。

 

残念なのがあらすじを言ってしまうとこの本の価値が薄れてしまうため、泣く泣く内容に関しては沈黙です。

 

 現実的でない小説は悪なのか

これもよくある話で偶然の連続は小説としてチープだとか、予定調和すぎて白けるなどという人が世の中にはよくいますがこの考え方はいくらか間違っています。

小説なんてものは現実的な方が嘘くさいし、つまらない

予定調和最高じゃないですか。笑 古臭い勧善懲悪ものもおもしろいですよね。

何が言いたいかというと伊坂幸太郎さんのようなエンターテインメントに寄っている作家さんにはアンチが多いなということです。そしてそんな声があるせいで手に取りにくくなってしまう人もいるでしょう。加えてそれなりに本を読む人間であればエンタメ寄りの作家は嫌煙する人が多いと思います。(僕自身も最近まで東野圭吾さんの小説を小馬鹿にしていました。中学生の頃は夢中で読んでいたくせに...でも最近はまた読んでます)

 

小説というのは他の娯楽(テレビとか漫画とかゲームとか、恋愛とか)よりも快感を得るのに一定の努力が必要になります。それゆえに読書家の中にはこんな簡単でおもしろいものを読むのはミーハーだと切り捨てる人も多いでしょう。

私が思うに人生を楽しむコツは面白いことをちゃんと面白いと認めてあげることです。こういうのは子供っぽいとか自分らしくないというセリフは異性を口説くときだけにしておいて大いにエンターテインメントを楽しもうではありませんか・

 

きっと伊坂幸太郎さんの小説はあなたを楽しませてくれるはずです。別に教訓なんて得なくていいんだ。

彼の素晴らしい娯楽作品を楽しめる崇高な人間が一人でも増えますように

過ちを認められないのが人間なんです〜浮世の画家/カズオ・イシグロ

今日はノーベル賞受賞でも話題になったカズオ・イシグロの初期の作品「浮世の画家」についてのひとりごと

 

ぶっちゃけた話賞って何さ

文学賞には色々とあって芥川賞とか直木賞は作品ごとにノーベル賞は作家ごとに授与される賞です。

要するに芥川賞とか直木賞を取った作品というのは一般的にその人の代表作となる訳ですが作品ごとの賞というのはその時の一過性のブームなどに影響されやすいので正直評価が分かれるところ。あとは賞など取らずでも売れまくる作家は日本の賞から外れることが多いですね。前回紹介した村上春樹さんも芥川賞は取っておらず(最終選考までは残ったのかな?確か)最大の取りこぼしとか言われる訳です。まぁ売れる作家が賞を取らないのは選考委員の気持ちになればわかりますよね、素晴らしいものを発掘して世の中に広めたいのにすでに発見された作家の作品を選んでもアレなので。笑

 

それでは本題

そろそろ話をカズオ・イシグロに戻しましょう

彼のノーベル賞選考理由は

「壮大な感情の力を持った小説を通し、世界と結びついているという、我々の幻想的感覚に隠れた深淵を暴いた」 

 ちょっとよくわからないですね。

ただ彼の小説に共通しているのは登場人物たちは過去に傷を負い、そして今もその痛みを抱えている所ですね。要は過去から現在進行形で傷ついた人間の物語な訳です。

 

そんなカズオ・イシグロ作品で私が一番好きなのが浮世の画家です。この小説の主人公は戦前の思想を捨てられない日本画家です。彼は戦時中に戦争を美化、肯定するような作風(ってどんな作風だろう)の日本画を世に送り出し、その道の大家とされていました。まぁ戦争肯定というと言い過ぎですが過剰な天皇への賛美や国家主義的な思想を後押しするような画家だったのです。そんな彼の生活は終戦後一気に変わっていきます。昔面倒を見てやった弟子から遠回しに、でも露骨に避けられたり、娘の縁談が進まなかったり... ただ彼はそれをどちらかというと世の中が間違っているという視点で解釈しています。どうしようもない虚しさが常に底を流れているような形で物語は進んでいきます。そして救いは提示されない。

あらすじではないですが中身はだいたいこんな感じ。

 

 

最後に

ここからは私自身の主観ですがこの小説から得られる教訓があるとすれば

「究極的にいえば、本当に大事な問題であればあるほど人間は過ちを認めることは出来ない、したがって過ちから学ぶこともない、ただ何かが違うという違和感と空虚を抱えたまま今日の夜をやり過ごして行くしかないのだ」

名言っぽくなってますかね。笑 

浮世の画家を読めば自分は正しい側にいるのか。自分は社会に適応しているのか、罪とはなにかなどと考えさせられます。ノーベル賞の選考理由には壮大な感情とありますが彼が描く感情はリアル以上にリアルだと思います。揺さぶられて不安になる涙は流れないのに確かな胸の痛みがそこにはあります。

 

今日はこんなところで、、

ではこの本を手に取る人が少しでも増えますように

 

 

f:id:kiri1837:20180525171138j:plain



 

とにかくセリフを味わう小説〜ノルウェイの森/村上春樹〜

ノルウェイの森ってど定番すぎるでしょ!

といったツッコミが入ることは確実でしょうが好きなので仕方がない。

ちなみに私は根っからのハルキストです。笑

私の初めての村上春樹体験はでオードリーヘップバーン主演の映画でも有名なティファニーで朝食をトルーマンカポーティ)”の翻訳でした。

僕の中での村上春樹は最初は翻訳家だったわけです

(特にその頃はお金のない中学生だったので書店に行くことなどほとんどなく、図書館中心だったので現役の人気作家には疎い所がありました。今と違って報道も加熱していなかったので)

 

そんな訳で初めて手に取った村上春樹作品がノルウェイの森だった訳です。

 

ひたすらに刺さるセリフの応酬というのが私のノルウェイの森評です。これぐらいの長さの小説だとストーリーやプロットとしての魅力よりもセリフや描写が強い力を持っていることが繰り返しよむとわかります。

 

まずは主人公のワタナベ君のセリフ

「孤独が好きな人間なんていないさ。無理に友達を作らないだけだよ。そんなことしたってがっかりするだけだもの」

 

 これには友達の少ない私はかなり共感しました。笑

ただこれをさらっと言ってしまうから孤独が好きに見えるんですよね。性格的にはかなりこじれているところが見受けられるワタナベ君ですが悪い男ではないし、これがモテまくるんですね。よく村上春樹の小説の批判で主人公がやたらと非現実的にモテるというのがありますがこのワタナベ君は物語の冒頭でこんな会話をしています。

「じゃあ私のおねがいをふたつ聞いてくれる?」

「みっつ聞くよ」

 

これはモテないわけがないですよね。笑

そして主人公がモテまくるのは非現実的というのは意味不明な批判です。小説っていうのはただの物語ですから(これは物語の力を否定している訳ではないです)

 

次は私が一番好きなキャラクターの永沢さんのセリフ

「知らない女と寝てまわって得るものなんて何もない。疲れて、自分が嫌になるだけだ。そりゃ俺だって同じだよ」

この永沢さんというのが家は名家、成績優秀のプレイボーイといったチート人間なのですが定期的に夜の街にガールハントに出かけるというトンデモない先輩なんですね。

私が思うこの小説のテーマは自己との葛藤と矛盾です(現にこの物語には色々な問題で揺れ動く人の心が描写されています。)自分は今こうすべきなのだ、でも自分の望む道は違う。こういうケースはどっちを取っても後悔するしかないものですがこの永沢さんはこの自己矛盾を受け入れて先へ先へと人生を進めていきます。ある意味作中最も孤独な人物です。

 

最後は本作のヒロインである緑のセリフ

「恋人がいたらあなたのこと考えちゃいけないわけ?」

なかなか痺れるセリフですよね。一度でいいから言われてみたい。笑

ある意味このノルウェイの森という全体的に暗い物語で唯一希望の光のようなものを放っているのが緑の存在です。名前の通り生命力を弾けさせて進んで行くような女性。

人間にとってひと時に二人の人に惹かれてしまうのは永遠のテーマではないでしょうか。彼女のすごいところはその悩みをすんなり飛び越えちゃうところですね。そしてそこが大きな魅力になり、ワタナベ君の最後の選択にも影響を与えてくるのです。

 

最後に

ノルウェイの森はセリフと見事な比喩表現を味わう小説と言っても過言ではないでしょう。

ストーリーの組み立てに関してはいたってシンプルですが登場人物たちの心の動きを言葉の掛け合いや比喩でどんどん揺らす正に王道の純文学という感じですね。ただ本作で直接的な感情表現、心理描写はやりきったということか以降の村上作品での感情描写はもっと静謐で深遠なところに隠れていきます。物語そのものの魅力にシフトして行くと言った感じですかね。日本人作家は基本的には登場人物の心理描写に重点がおかれ、直接的な場合が多いというか共感という部分につながって行くわけですが、それに比べて英米文学はあくまで物語性や状況描写に重点が置かれ人物そのものの心の動きを直接描写することは少ないかと思います。同じ涙が水溜りに落ちるシーンを描く場合に涙の軌跡を描写するか波紋を描写するかというような細かい差ですが村上春樹さんの作品が世界中で広く読まれているのはこの辺りがポイントになっているのかもしれません。

 

これ以上は長くなってしまうので次の機会に、、ではこの本を手に取る人が少しでも増えますように

f:id:kiri1837:20180519180514j:plain

インドアな読書家の独り言のようなブログです

初めましてキリと申します。

名前は大きく目立つように。笑

 

このブログでは趣味というか習慣であり、中毒である読書について書いて行こうと思います。

しょうもない一個人の感想をネットの海に垂れ流すわけですが読んでいただければ幸いです。

独り言のようなエッセイのような感じを出せたらいいかなと

 

とりあえず週一回以上の更新を目標に進めてまいります。

独り言とは言いましたが、私の投稿に共感してくれた方も異議アリな方(炎上とか言う意味でなく)のご意見ご感想をコメントいただけると励みになります。

オススメの本の紹介なども待ってます。

 

では第一回の紹介本を決めるために本棚に向かいます・・・