本の虫のひとりごと

ぐうたらな本の虫の少し長めの独り言です

過ちを認められないのが人間なんです〜浮世の画家/カズオ・イシグロ

今日はノーベル賞受賞でも話題になったカズオ・イシグロの初期の作品「浮世の画家」についてのひとりごと

 

ぶっちゃけた話賞って何さ

文学賞には色々とあって芥川賞とか直木賞は作品ごとにノーベル賞は作家ごとに授与される賞です。

要するに芥川賞とか直木賞を取った作品というのは一般的にその人の代表作となる訳ですが作品ごとの賞というのはその時の一過性のブームなどに影響されやすいので正直評価が分かれるところ。あとは賞など取らずでも売れまくる作家は日本の賞から外れることが多いですね。前回紹介した村上春樹さんも芥川賞は取っておらず(最終選考までは残ったのかな?確か)最大の取りこぼしとか言われる訳です。まぁ売れる作家が賞を取らないのは選考委員の気持ちになればわかりますよね、素晴らしいものを発掘して世の中に広めたいのにすでに発見された作家の作品を選んでもアレなので。笑

 

それでは本題

そろそろ話をカズオ・イシグロに戻しましょう

彼のノーベル賞選考理由は

「壮大な感情の力を持った小説を通し、世界と結びついているという、我々の幻想的感覚に隠れた深淵を暴いた」 

 ちょっとよくわからないですね。

ただ彼の小説に共通しているのは登場人物たちは過去に傷を負い、そして今もその痛みを抱えている所ですね。要は過去から現在進行形で傷ついた人間の物語な訳です。

 

そんなカズオ・イシグロ作品で私が一番好きなのが浮世の画家です。この小説の主人公は戦前の思想を捨てられない日本画家です。彼は戦時中に戦争を美化、肯定するような作風(ってどんな作風だろう)の日本画を世に送り出し、その道の大家とされていました。まぁ戦争肯定というと言い過ぎですが過剰な天皇への賛美や国家主義的な思想を後押しするような画家だったのです。そんな彼の生活は終戦後一気に変わっていきます。昔面倒を見てやった弟子から遠回しに、でも露骨に避けられたり、娘の縁談が進まなかったり... ただ彼はそれをどちらかというと世の中が間違っているという視点で解釈しています。どうしようもない虚しさが常に底を流れているような形で物語は進んでいきます。そして救いは提示されない。

あらすじではないですが中身はだいたいこんな感じ。

 

 

最後に

ここからは私自身の主観ですがこの小説から得られる教訓があるとすれば

「究極的にいえば、本当に大事な問題であればあるほど人間は過ちを認めることは出来ない、したがって過ちから学ぶこともない、ただ何かが違うという違和感と空虚を抱えたまま今日の夜をやり過ごして行くしかないのだ」

名言っぽくなってますかね。笑 

浮世の画家を読めば自分は正しい側にいるのか。自分は社会に適応しているのか、罪とはなにかなどと考えさせられます。ノーベル賞の選考理由には壮大な感情とありますが彼が描く感情はリアル以上にリアルだと思います。揺さぶられて不安になる涙は流れないのに確かな胸の痛みがそこにはあります。

 

今日はこんなところで、、

ではこの本を手に取る人が少しでも増えますように

 

 

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